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地獄の超ド根性セールスマン

今日は、私が出会った世にも恐ろしいセールスマンのお話をしましょう。と言ってもちょっと古い話です。

時は、昭和六十年代初頭、某銀行で営業マンをしていた私は、支店長から担当地域の新規開拓を厳命されました。

 新規開拓ってやったことある人はわかると思いますが、嫌なもんですよね。今もそうかもしれないけど、当時は飛び込み訪問の新規顧客開拓が王道でした。いわゆるドアツードアで顧客の呼び鈴を押して回る方法。ドアを開けてもらえるのはまだいいほうで、ほとんどの場合、インターフォンでガチャンです。

 当時、若くて負けず嫌いだった私は、何とか先輩を営業成績で追い抜いてやろうと密かに闘志を燃やしていました。だけど、どうやったらいいのか方法がわかりません。そんなとき、たまたま見た雑誌に、「日本一のトップセールスマン、怒涛の営業」とか言う講演会の広告が出ていました。開催日は日曜です。
こりゃ、もっけの幸いと申し込みました。

 講演会の当日、期待に胸を膨らませて参加しました。すごい天才的なノウハウがあって、「開け!! ゴマ」みたいな魔術のような言葉を使えば、お客さんは皆、ドアを開けてくれると思ったのです。ノートを用意し、講師の話は一言一句おろそかにしないぞと、ペンを握る手に力を込めて、身構えました。

講師は、五十年配の髪を短く刈り込んだおっさんでした。趣味の悪い派手な背広。フーテンの寅さんの目を大きくしたような顔で、私たちの前に立ち、大きな声で自己紹介を始めます。それが終わると、いきなり前列に座っていた若い男性を指差し、「あなたは、昼飯を食いますか?」と聞きました。いきなり大きな声で聞かれ、その若い男は、「はっ、はい」とおずおず首を縦に振りました。

「トップセールスマンになりたかったら、昼飯なんか食ってちゃダメです」

講師は、参加者を見回すと、大声で言い放ちました。参加者は皆、生唾ゴクリです。

「昼飯を食うとまず眠くなる。そして満ち足りた気分になる。そんな幸せな気分で営業なんかできますか。人間、飢餓状態で追い詰められたほうがいい仕事ができるんですよ」

(私は、地獄の餓鬼のようになった営業マンが、泣き叫びながら逃げ惑う人たちを追い回している姿を想像しました)

「それから、日曜・祭日も休んじゃダメです。特に元旦は、大抵の家のご主人は自宅にいるものです。営業は、年中無休。一日休めば、好調のリズムが崩れ、戻すのに一週間はかかります」
(ゲッ、正月から営業1? でもこの人なら、獅子舞いみたいな顔してるから縁起モノとして喜ばれるかもしれないぞ。でも普通の人が営業したら…。)私の額から汗が流れ始めました。

「しかし、深夜に訪問するとさすがに苦情がくることがあります」

 講師は、眉を寄せながら弱気な声を出しました。
(ふぅ。少しまともになってきたな)

「だから私は、夜の10時を過ぎるとなるべく訪問営業は差し控えます。その代わり、名刺とパンフレット。これを大体一日100件ぐらいのポストに投函してくる。それが終わって家に帰るのが、夜の12時ごろ。さすがに晩御飯は食べますよ。だけどストップウォッチで正確に測り10分ですまします。妻との会話もぴったり10分。風呂はすこしゆっくり入りたいので20分。そしてそのあとがやっと私の時間です」

( ……………………。)

講師はちょっと間をとって、ニャッと笑いながら参加者を見回しました。

「深夜、皆が寝静まってから、事務処理です。今日の戦果を振り返りながら独り、悦楽に浸る。至福のひと時ですよ。でもそう長くは浸っていられない。やはり寝ないと次の日に響きますからね。だから午前2時には寝て、三時間ぐらいの睡眠時間は確保する必要があります。それから一番もったいないのは通勤時間。前いた会社は遠かったので、勤め先から5分ぐらいのところにアパートを借りて、独りで住んでいました。それぐらいやらなきゃ、日本一にはなれません」

(ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~。化け物じゃ~)

以上は20年ぐらい前の話ですが、今はこんなことを言う人、少なくなりましたね。要は訪問件数を多くして、顧客との接点を増やせってことだと思います。結構、泥臭く走り回っている営業マンのほうが成績があがっているのではないでしょうか。今をときめくインターネット接続会社も、よく駅前で、テキヤのような感じで勧誘していますよね。最先端を行くIT企業も、営業だけはいまだにアナログなんだなと感じました。

それにしても当時、この講演会に触発されて頑張って営業したものの、やっぱり長続きはしなかった。飛び込み訪問をして、迷惑そうな顔をされると、嫌な気分にさせちゃったな~と落ち込むのです。普通の人が、どんなに努力しても朝青龍やボブ・サップになれないのと同じ。

だけど、見ず知らずの人に自分をわかってもらうまでは大変だし、時間がかかるものです。あれからいろいろ研究して、自分なりの新規開拓の方法を作り出したのですが、どんな画期的な方法であっても、「超ド根性営業マンの気持ちの持ち方」がないと途中で挫折してしまうとわかりました。

そう思って、最近の自分を振り返ると、インサイドワークがうまくなりすぎてしまた気がする。便利屋の原点に立ち返らねばならないと気を引き締める今日この頃です。

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