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元銀行員が見た「半沢直樹」考

 

 残暑お見舞い申し上げます。

 厳しい暑さが続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。

 これだけ暑いと、さすがのオイラも外をほっつき歩くのを自重したくなる今日この頃。

 暑い日は、クーラーの効いた部屋でテレビや読書をするのが一番の贅沢かもしれませぬ。

 ところでテレビと言うと、今、あまちゃんが大人気だそうですが、その視聴率を上回ったということで「半沢直樹」が注目を集めていますね。

 曲がりなりにも、元銀行員としてはこの大ブームを見過ごすわけには参りませぬ。

 銀行を舞台にしたミステリーなので、もしやと思って見ると、やっぱし原作者は池井戸潤氏ですか。

 池井戸潤は、乱歩賞を受賞した平成10年からオイラにとって気になる存在でした。

 実は今から15年以上前に、オイラも銀行を舞台にしたミステリーを書いたことがあったのですよ。

 原稿用紙100枚程度の短編ですが、それを出版社のミステリー新人賞に応募したら、何と2次選考を通ったのですね~。

 さすがに最終選考の一歩手前で落選してしまったのですが、生まれて初めて書いた作品が、250編中の17作品に残ったということで結構やる気が湧いて来ました。

 よし、今度は銀行ミステリーで新人賞を受賞するぞと息巻いていたとき、池井戸潤が「果つる底なき」で江戸川乱歩賞を受賞したのです。

 その作品を読んだとき、もう銀行ミステリーをオイラが書いても駄目だと諦めましたね。

 オイラの書いた作品がある程度評価されたのは、それまで銀行を舞台にしたミステリーがほとんどなかったのが理由でしたから。

 しかも、池井戸作品は、銀行業務の専門知識とトリックが見事に融合している。銀行業務に対する体系的な知識が豊富にある人なのだと…。

 さすが名門・三菱銀行の元行員は違うと思いました。元銀行員の目から見ても、池井戸作品は現場の雰囲気をリアルに伝えているのがわかります。

 ただ、マニアックすぎて、乱歩賞の受賞から長い間低空飛行を続けていた記憶があります。

 むしろ乱歩賞を同時受賞した福井晴敏のほうが当時は活躍していたかも。ちなみに、福井晴敏の代表作は、『亡国のイージス』と『終戦のローレライ』。

 何十年も定期的に図書館に通っているのですが、池井戸作品は長く、いつ行っても借りられる状態が続いていました。

 半沢直樹の原作の『オレたちバブル入行組』と『オレたち花のバブル組』は、特に不人気でしたね~。もう少しタイトルをインパクトのあるものにすればいいのにと、いつも思っていたのですが…。

 やがて、「空飛ぶタイヤ」で注目を集めたものの、やっぱり潮目が変わったのは、「下町ロケット」で直木賞を取ってからでしょうか。

 それからは、いつ図書館へ行っても、池井戸作品は借りられていて、滅多にお目にかかることはなくなってしまいました。

 銀行出身のオヤジでも、当時は見向きもしなかった『オレたち花のバブル組』を、若い女性が電車の中で読んでいるのを見たときは驚きましたが。

 やはり、直木賞プラス人気テレビドラマの影響度ははかりしれないのだと感じました。


 ところで、テレビドラマの「半沢直樹」は、さすがに元銀行員が原作者だけあって、同じ元銀行員の目から見ても納得できるシーンが目白押しです。

 とくに、銀行の人事部からの裁量臨店で、本部の人間が偉そうにドカドカと支店にやってくるシーンは納得でした。

 メガバンクと地方銀行の違いはあるけれど、そういえばあんな威圧的な顔で本店の人たちが検査にやってきたなあと。

 ただ、ドラマとリアルの現場との違いももちろんありますね。

 新規先に5億円の無担保融資を行うのは、さすがにメガバンクでも無理があるでしょう。

 しかも、支店長が一融資課長に、5億円焦げ付きの全責任を押し付けるのはちょっと考えられない。

 銀行の新規融資で、なおかつ無担保の融資になるといろいろな人たちのチェックが入ります。

 今のチェック体制はわかりませんが、オイラの頃は融資担当者が稟議書を書き、まず融資課長がチェックして認証印を押す。次に副支店長や支店長がそれぞれチェックして同じように認証印を押します。その後、本店の融資部で、その稟議書をある程度客観的に立場で審査するのです。

 それぞれ印鑑を押した人がそれぞれ責任を負うわけですから、その時点で連帯責任なのですね。

 もちろん、そのチェック体制をすり抜けて、融資したお金が焦げ付くケースもありますが、一人に責任を押し付けて、それ以外の人たちがすべてセーフということはありえない。

 経験上、もっとありえないのは、融資課長の半沢直樹が昼間からかなりの長時間、自由に外を出歩いたりできる点。

 メガバンクは違うのかもしれませんが、融資課長は頻繁に来客がありますし、大量の稟議書のチェックを行わないといけない。

 資金繰りの厳しいお客さんは、毎日が綱渡りみたいな部分があって、担当者や課長は気が抜けません。

 稟議の決済が遅れると、不渡りを起こす会社も珍しくなく、オイラも稟議書に印鑑を押してもらうために、課長が席にいないと探し回ることもよくありました。

 本来は、5億の焦げ付きの回収だけに集中して仕事している暇はないかも。

 半沢直樹が外をほっつき歩いているとき、部下の行員たちが稟議書を持って、真っ青な顔で探し回っているシーンをイメージしてしまいました。


 でも、ドラマはリアルの世界とは違うと言いましたが、ドラマの世界でもないことがリアルの現場では起こることもありまする。

 以下のエピソードをドラマにしても、あまりにも類型的すぎて面白くないとカットされるのではないでしょうか。

 前にも書きましたが、銀行にはいろいろな検査があります。

 お客様から大切なお金をお預かりしている公的な側面もあって、常に健全な仕事の姿勢が求められるのです。

 外部からは財務省や日本銀行の検査、内部からも本店の検査など定期的に監査を受けます。内部の検査は、本店の検査部にいる同じ行員から検査を受け、いろいろと指導されるのですよ。

 オイラが新人のときに支店に検査が入り、ある検査官から呼び出されました。

 検査を行っている部屋に入ると、肘掛椅子に座布団を二枚重ねにして、ふんぞり返って座っている検査官がいました。

 銀行に入ったばかりで仕事のミスも結構あったので、徹底的に指導を受けました。

 もうほとんど、半沢直樹の裁量臨店状態。


 検査官は、徹敵的に新人を懲らしめて、自分の優位さをさらに高めようと思ったのでしょう。

「ところで、君はどこの大学を出てるの?」

 オイラが答えると、その検査官は勝ち誇ったように、ケッと舌打ちしました。

「私立大学じゃ、数字の計算が苦手なわけだ。入試科目に数学がなかったんだろ?」

 そのあと、その検査官は薄笑いを浮かべながら、今どきのテレビドラマでも言わないような一言を言ったのです。

「俺がどこの大学を出ていると思っているんだ。ふふふ、東大を出ているんだよ」

「?????」

 当時のトレンディードラマにもないような、あまりにもわかりやすいキャラクターに、呆然とするオイラ。

 しかし、そのあと生来のヨイショ魂を如何なく発揮し、検査官の自尊心をさらに高める言葉を連発して危機を脱出したのでした。

 その場からはとりあえず解放されたものの、何か嫌~な気分が残ったのを覚えています。


 しかし、その30分後、その検査官が烈火の如く怒って、「検査の結果を見て、腰を抜かすなよ」という捨て台詞を残して支店を去って行ったのです。

 もうほとんど、遠山の金さんにやっつけられた悪党が「この野郎。覚えてやがれ!」と逃げて行く状態で…。


 その検査官を怒らせたのは、当時の支店の得意先課長です。

 仕事には厳しい人でしたが、プライベートでは部下にはとても優しい人でした。

 しかし、上の人にはズケズケ物を言うタイプの上司。

 その得意先課長も、オイラと同じことをその検査官から言われたそうです。

 それに対する返答は…。


「東大を出て、支店長になれなかったのはお前だけじゃないか!!」


 結果的に、課長のその一言で、オイラのいた支店の検査の評価は最低になり、業績表彰を逃してしまいました。

 しかし、当時の支店長も、副支店長も、一般の行員も、その課長を責める人は一人もいませんでしたね。

 やっぱり、半沢直樹的な人は、いつも時代も好かれるのかも。


…ということで、半沢直樹と同じく、銀行員が活躍する「時代、場所、業種を選ばず、どんな人でも成功する新規開拓営業の教科書」(青月社刊 永嶋信晴著)もよろしければ是非。

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